一級建築士事務所:吉田建築設計室 (99年02月10日)

楽しい間取り作り

自分で間取りを作ってみましょう
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■ 間取り作りを楽しみましょう
 子供時代、自宅の増改築があったとき、方眼紙に間取り図をたくさん書いて遊びました。両親には見せませんでしたが、それはそれは楽しかった記憶が私にはあります。
 人の持つ能力のうち、記憶力は年齢と共に衰えるのが自然のなりゆきですが、創意工夫をする能力は年齢には無関係、その人次第というのが通説になっています。そして、楽しくておもしろいことだという考えに異論はないでしょう。

 その創意工夫の結果が形になることはもっと楽しくておもしろいことです。

一生の間に何度もあることではありませんが、自宅の新築はもちろん、増改築や模様替えは、創造力を具体的な形にできる絶好の機会です。プロの住宅設計者達は、実はこのために逆境にもめげずに仕事を続けているのですが、自分の住む家ではありませんから、そう勝手なことはできません。

■ 自分ひとりだけで間取り作りをすると
 施主の立場であれば、自分の住む家です、なんでもやりたいことができます。ですが、ここが問題です。自分ひとりだけで間取り作りをすると
  • 考えておくべきことが抜けている
  • なにかにこだわりすぎて犠牲の大きさに気がつかない
  • これまで住んでいた家にとらわれる
  • ある決定による利点を得るかわりに我慢しなくてはならないところがでてくるが、これに気づかない。
  • 無理・無駄の多い間取りになっている。
などということが起こりがちです。

■ 考える時間を十分にとりましょう
 たとえ予算にゆとりがなくても、すべての人に住宅専門の設計者と共同で計画を具体化するようお薦めしたいのですが、この考えは多くの場合、現実的ではありません。設計料は、少なくとも工事費の1割以上を覚悟しなくてはならないからです。

 設計者という、施主のために考える仕事のプロを入れずに、実際に作る仕事の大工さん、工務店、住宅メーカーなどの施工者に直接住宅の建築を頼んだ場合、どうしても考えることより作るほうが優先されがちになります。これは当たり前のことで、要求するほうが無理といえるでしょう。

 考えることは、施工者と話を始める前に十分な時間をとって事前に済ませておきましょう。

 住宅計画で考えることの内容はさまざまですが、一番エネルギーの必要なのが、間取り図作りです。

■ 間取りはひとつに
 住宅展示場でサインをしてくると、いくつもの住宅メーカーが間取りを提案してくると聞いています。でも、異なる間取り、違う仕様では比較検討はたいへん困難です。
 自分で作った間取り図がひとつあれば、ひとつの会社を特別に指名してそこに工事を任せる場合も、複数の施工者に工事の打診をする場合も、共に打ち合わせの時間とエネルギーのロスを大幅に少なくすることになるでしょう。
 また、住宅メーカーの場合、工法・仕様・コストのためにある程度の制約があることもありますが、話が進行してからだとそのために別のところを探すというのもままなりません。間取りが決まっていれば、「この家は作れますか?」と最初に質問することができます。

■ 素人でもだいじょうぶ
 趣味として楽しむ場合は別として、住宅計画を実現させるためには、ある段階で施工者と実際の工事の打ち合わせに入ります。そのときには、その会社に協力している設計事務所、あるいは社員の建築士などが、寸法の入った図面に作りなおすことになりますので、間取りの書き方の上手下手はほとんど問題になりません。
 幸いなことに、日本には昔から尺と坪という単位があり、みんなでこれになじんできました。1坪がおよそ畳2枚分、6尺角という大きさの見当がだれでもすぐに実感できるというのは実にすばらしい、日本人の無形の財産です。これを活用して方眼紙のます目に部屋を割り当てることは誰にでもできます。
 当事務所では、間取り用方眼紙としてトレーシングペーパーに特殊な点線を印刷した「点線グリッド」を販売していますのでご利用ください。「点線グリッド」はさらに能率よく間取り作りができるように点線に特殊な工夫を加えた間取り専用の方眼紙です。

■ いくつもの間取り図を作る方法もある
 自分で、楽しみながらあれこれ考えているうちに時間切れとなることもあるでしょう。また、気に入ったいくつもの間取り図がある、ある点で気に入らない途中までの間取り図があるという状態で、施工者との話をはじめなくてはならなくなることもあるかもしれません。でも心配はいりません。そのような場合でも、未完成の間取り図とそれまでに考えた過程は、以後の話を煮詰めていくための資料となり、打ち合わせはずっとスムーズに進むでしょう。決して無駄にはなりません。
 また、完成したように思えた間取り図でも、建築法規上の問題、メーカー独自のモジュール・仕様・工法などによる制約、その他のために変更しなくてはならないところがでてくるかもしれませんが、クライアントの意図が十分に反映されている間取り図は、プロの重要な資料となります。

■ 100%満足できる間取りは不可能です
 住宅計画にはさまざまな制約と矛盾した希望があります。100%満足できる間取りは不可能です。
 家を広くすれば庭はその分狭くなり、あちこちに出入り口を作るとどこにでもすぐ行けて便利ですが、壁が少なく落ち着かない空間となります。どこかで折り合いをつけなくてはなりません。80%満足と思えれば大成功としましょう。でもはじめの50%の満足が、自分で創意工夫の能力をフルに働かせた結果80%の満足になれば、これほど楽しくおもしろいことはほかにあまりないでしょう。

■ セカンドオピニオンを求めましょう
 セカンドオピニオンを求めることは、近年、医療の分野で一般的化しつつあります。住宅計画でも、初期の間取り図を検討する段階でなら、もう少しなんとかならないだろうかというとき、第三者に相談して意見を求めることはたいへん有用です。
 ただし、その時期を見極めるのはとてもたいせつです。タイミングを逸してからでは、百害あって一利なし。こんなことは現実にはあり得ませんが、一番目の医師の治療が始まり薬を飲み始めているのに、別の医師に違う薬を処方してもらってそれも一緒に飲むようなことはやめましょう。


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